2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が「取引適正化法(取適法)」に改正・施行され、発注内容を電子的に交付する際の事前承諾要件が緩和されました。こうした制度整備を背景に、契約の作成から締結、保管までをオンラインで完結させる電子契約サービスの導入が広がっています。
この記事では、電子契約サービスの定義と主な機能、導入が増えている制度上の背景、メリットと導入前の注意点、導入の進め方までを整理します。契約書管理システムとの違いも含め、自社に必要かどうかを検討する基礎知識をまとめました。
電子契約サービスとは
電子契約サービスとは、契約書へ押印する代わりに電子署名とタイムスタンプを用い、契約書の作成から送付、締結、保管までをインターネット上で完結できるサービスです。押印のための印刷・製本・郵送という物理的な工程を経ずに契約を成立させられる点が、紙の契約との最も大きな違いです。
電子署名法(平成13年4月施行)では、一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書は、本人の意思に基づき真正に成立したものと推定されると定められています(法務省)。この規定により、電子契約は紙の契約と同等の法的効力を持つ手段として位置づけられています。
立会人型と当事者型という2つの締結方式
締結方式は、事業者が署名を代行する「立会人型」と、契約当事者本人の電子証明書で署名する「当事者型」の2つに大きく分かれます。
| 区分 | 署名の主体 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 立会人型(事業者署名型) | サービス事業者がメール認証等をもとに代行 | 取引先が多く、受け入れやすさを重視する契約 |
| 当事者型(当事者署名型) | 契約当事者本人が電子証明書で署名 | 不動産取引など高い本人性が求められる契約 |
多くのサービスは立会人型を基本としつつ、当事者型を選べる製品もあります。
契約書管理システムとの違い
電子契約サービスは電子署名で「契約を成立させる」工程を担うのに対し、契約書管理システムは紙・電子を問わず既存の契約書を取り込み、検索・期日管理を行う「契約書を管理する」工程に重点を置きます。過去分を含めた契約書全体の管理が主目的なら、契約書管理システムとは?機能とメリットをわかりやすく解説もあわせてご確認ください。
電子契約サービスの導入が増えている背景
電子契約サービスの導入が広がっている理由は、契約実務に関わる法制度がここ数年で相次いで整備され、電子化を後押しする方向に動いていることにあります。
取適法(下請法改正)で電子交付の要件が緩和された
下請法は2026年1月1日付けで取適法に改正・施行されました。公正取引委員会・中小企業庁の資料によれば、これまで発注内容の電子的な交付には事前の承諾が必要でしたが、改正後はこの要件が実質的に不要となり、電子的な方法での交付が原則として可能になっています(2026年8月時点で同関連資料をもとに整理。適用範囲は取引実態により異なるため詳細は同委員会・中小企業庁の資料でご確認ください)。
電子契約には収入印紙が不要とされている
印紙税の課税対象は「課税事項を記載した書面(用紙等)」に限られ、電磁的記録は対象になりません。国税庁の見解として、印紙税法基本通達の解釈上、原本を電子データとして作成・保存する電子契約には印紙税がかからないとされています(2026年8月時点で国税庁の公表資料をもとに整理。所轄税務署への確認をおすすめします)。
建設業法の要件整備とテレワークの定着
建設業法は平成13年の改正で工事請負契約書の書面作成義務を撤廃しており、相手方の承諾があれば電子契約による締結が可能です。国土交通省のガイドラインでは、電子契約に必要な技術的基準として「見読性」「原本性」に加え、2020年10月からは「本人性の確保」が明記されています。あわせてテレワークが定着し、押印のためだけの出社が業務のボトルネックになりやすいことも、契約実務をオンラインに移す動きを後押ししています。
電子契約サービスの主な機能
中心となる機能は、電子署名・タイムスタンプによる真正性の担保、契約書のオンライン送付と締結、締結後の契約書管理、契約期日の管理、社内外のシステム連携の5つです。
電子署名・タイムスタンプによる真正性の担保
契約当事者の合意を電子署名で、契約内容が締結後に改ざんされていないことをタイムスタンプで証明します。契約書原本の提示や筆跡鑑定に頼らずに、締結の真正性を示せる点が最大の利点です。
契約書のオンライン送付と締結
作成した契約書を相手方にメールやシステム上のリンクで送付し、双方がオンラインで署名した時点で契約を成立させます。業務がどう変わるか:印刷・製本して郵送し、返送を待つという工程そのものがなくなります。
締結後の契約書管理・検索
締結済みの契約書をクラウド上に保管し、契約書名・取引先名・締結日などの条件で検索できるようにします。削減できる手間:複数の保管場所を横断して契約書原本を探す時間がなくなります。
契約更新日・解約期限のアラート管理
契約書ごとに更新日や解約通知期限を登録し、期日が近づくと担当者に通知します。手帳やスプレッドシートでの個別管理が不要になり、自動更新条項がある契約の見落としを防げます。
社内承認ワークフロー・外部システムとの連携
契約締結前の社内承認をオンラインのワークフローとして設定できるほか、会計システムなどの外部システムとデータを連携します。負担が減る場面:稟議書を紙で回付し、押印者のスケジュールを調整する手間がなくなります。
必要な範囲は契約件数や業種によって変わるため、機能の多さではなく自社の実務に必要かどうかで判断してください。
電子契約サービスを導入するメリット
導入メリットは、印紙税・郵送費の削減、締結までのリードタイム短縮、押印のための出社対応の解消、契約書の検索性向上、更新・解約期限の管理精度向上の5点です。
- 直接コストの削減:収入印紙が不要になり、印刷・製本・郵送の費用もかかりません
- リードタイムの短縮:郵送の往復日数がなくなり、双方の署名だけで契約が成立します
- 出社対応の解消:テレワーク中でもオンライン署名でき、押印のための出社が不要になります
- 検索性の向上:契約書がクラウド上に一元管理され、紛失リスクを抑えられます
- 期日管理の精度向上:自動更新条項のある契約の見落としを防ぎやすくなります
導入前に確認したいデメリット・注意点
導入前に電子化できない契約の存在・取引先の同意・セキュリティ対策・過去の紙契約の扱い・料金体系の5点を確認しておきましょう。
すべての契約を電子化できるわけではない
一部の契約類型では、法律で書面の交付や説明が求められており、一本化できません。具体例は、電子契約が使えない・不向きな契約書とは?書面が必要なケースを解説で整理しています。
取引先の同意と受容性の確認が必要
電子契約は自社だけで完結できず、相手方の同意と操作への理解が前提になります。ITツールに不慣れな取引先には、事前の説明や紙契約との併用が必要になる場合があります。
なりすましや誤送信への対策を確認する
立会人型はメールアドレスによる認証が中心となるため、乗っ取りや誤送信のリスクを想定した運用が必要です。二段階認証の有無や送信前の宛先確認フローを社内規程に盛り込んでおくと安心です。
過去に締結した紙の契約書の扱いを決める必要がある
導入しても、過去の紙契約が自動的に電子化されるわけではありません。保存義務のある期間中は原本を別途保管する必要があり、多くの企業は新規契約から電子化を始め、過去分は保存期間の満了を待つ運用をとっています。
料金体系の違いを事前に確認する
料金は月額基本料に加えて送信件数に応じた従量課金がかかる体系が一般的です。契約件数が多い企業ほど従量部分の影響が大きくなるため、想定件数に基づいた試算が欠かせません。具体的な料金相場は、電子契約サービスの費用相場は?10社の料金で解説をご覧ください(2026年8月時点の参考値)。
電子契約サービス導入の進め方
導入は、対象範囲の洗い出し → サービス選定 → 社内規程の整備 → 承認フローの設定 → 取引先への案内という流れが一般的です。
| ステップ | 確認しておきたいこと |
|---|---|
| 1. 対象範囲の洗い出し | 書面交付が義務の契約が含まれていないか |
| 2. サービスの選定 | 締結方式、取引先の受容性 |
| 3. 社内規程の整備 | 押印規程との整合性、権限者の設定 |
| 4. 承認フローの設定 | 決裁者の階層、緊急時の代理承認 |
| 5. 取引先への案内 | 併用期間、問い合わせ窓口 |
詳しい進め方は、電子契約の導入手順5ステップ|社内規程の整備から取引先への案内までで解説しています。
電子契約サービスに関するよくある質問
Q. 電子契約はすべての契約書に使えますか?
使えない契約が一部あります。法律で書面の交付や説明が義務付けられている契約類型では一本化できません。具体例は、電子契約が使えない・不向きな契約書とは?で解説しています。
Q. 電子署名は実印や印鑑証明と同じ効力がありますか?
同一ではありませんが近い役割を果たします。要件を満たす電子署名が行われた電子文書は、本人の意思に基づき真正に成立したものと推定されます。重要度が高い契約では当事者型を検討してください。
Q. 取引先が電子契約に同意しない場合はどうすればよいですか?
紙の契約と電子契約を併用する運用が一般的です。立会人型は相手方の操作負担が少ないため、受け入れやすい取引先から切り替える進め方が現実的です。
Q. 過去に紙で締結した契約書も電子化する必要がありますか?
必須ではありません。法定の保存期間が満了していない紙の契約書は、そのまま保管を続ける企業が一般的です。
まとめ
電子契約サービスは、押印を電子署名・タイムスタンプに置き換え、契約の締結から保管までをオンラインで完結させる仕組みです。
- 主な機能は、真正性の担保・オンライン送付と締結・契約書管理・期日管理・システム連携の5つ
- 背景には、取適法(下請法改正)・印紙税の扱い・建設業法の要件整備とテレワークの定着という制度面の動きがある
- メリットは直接コストの削減、リードタイム短縮、押印のための出社対応の解消など
- 注意点は、電子化できない契約の存在・取引先の同意・セキュリティ対策・過去の紙契約の扱い・料金体系の5点
- 契約書全体の管理を重視する場合は契約書管理システムとの役割分担も検討する
製品を具体的に比較したい場合は、電子契約サービスのおすすめ8選を比較【2026年版】料金・機能・選び方で料金・機能・締結方式を確認できます。掲載サービスの一覧と資料請求は電子契約サービスのカテゴリページからご覧いただけます。
本記事の調査方法
本記事は、2026年8月時点で法務省・国税庁・公正取引委員会・中小企業庁・国土交通省の公表資料をもとに、法制度に関する記載を整理して作成しています。料金体系は電子契約サービス各社の公式サイトで確認できる一般的な傾向を参考にしています。契約の法的な取扱いは顧問弁護士または所轄官庁に、料金・機能は各社公式サイトでご確認ください。