2023年3月期以降の有価証券報告書から、上場企業には人材育成方針や研修実績に関する情報開示が義務化されました。研修の実施状況を数値で示す必要が生まれたことで、受講率やテスト結果を自動で記録できるeラーニングシステムへの関心が急速に高まっています。
eラーニングシステムとは、動画や教材をオンラインで配信し、受講状況をシステム上で一元管理できる仕組みです。本記事では、その定義と主な機能、導入が広がる制度的な背景、メリットと導入前の注意点を、自社に必要かどうかを判断できる粒度で解説します。
eラーニングシステムとは
eラーニングシステムとは、動画や教材などの学習コンテンツをインターネット経由で配信し、受講状況や理解度をシステム上で一元管理できる仕組みです。学習管理システム(LMS:Learning Management System)とも呼ばれます。会場や日時をあらかじめ固定する集合研修と違い、受講者は自分のペースで学習を進められます。企業側は「実施したかどうか」だけでなく「理解できたか」まで踏み込んで把握できる点が、最大の特徴です。
集合研修・OJTとの違い
eラーニングは時間と場所を選ばずに個人のペースで学べる点が、決まった日時に集まる集合研修や、実務を通じて学ぶOJTとの違いです。
| 区分 | 実施形態 | 向いている内容 |
|---|---|---|
| eラーニング | オンラインで個別に受講 | 知識のインプット、法定研修、反復学習 |
| 集合研修 | 決まった日時に集合して実施 | グループワーク、ロールプレイ、対話が必要な内容 |
| OJT | 実務を通じて指導者から学ぶ | 実技・現場でしか身につかない業務知識 |
知識のインプットはeラーニング、実践的な内容は集合研修やOJTで補う組み合わせが一般的です。
eラーニングシステムの導入が増えている背景
eラーニングシステムの導入が広がっている理由は、企業に求められる研修の範囲が制度面で広がる一方、対応できる時間と人員が限られていることにあります。
上場企業に人的資本の情報開示が義務化された
2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、人材育成の方針や社内環境整備の方針、およびそれに関する指標の開示が必須記載事項となりました。対象は金融商品取引法に基づき有価証券報告書の提出が求められる上場企業などで、研修にかけた時間や費用、対象者の参加率といった指標が開示項目に挙げられています。研修の実施状況を数値で示す必要が生じたことで、受講率やテスト結果をシステムで記録できるeラーニングの活用が広がっています。
※2026年8月時点で内閣官房・金融庁等が公表する人的資本開示関連の資料をもとに整理した内容です。対象範囲や具体的な開示項目は年度により見直される場合があります。
ハラスメント防止研修の実施が中小企業にも求められている
改正労働施策総合推進法により、職場におけるパワーハラスメント防止措置を講じることが事業主の義務となっています。大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から適用されており、拠点や勤務形態が異なる従業員全員に同じ内容の研修を計画的に実施する手段として、eラーニングとの組み合わせが選ばれています。
※2026年8月時点で厚生労働省の公表資料をもとに整理した内容です。
拠点の分散とテレワークの定着
拠点が複数ある企業やテレワークを導入している企業では、対象者全員を一箇所に集めて研修を実施すること自体が難しくなっています。会場の確保や移動にかかる時間・費用を抑えながら必要な研修を計画的に実施する手段として、eラーニングが選ばれています。
eラーニングシステムの主な機能
eラーニングシステムの中心となる機能は、教材の配信、受講・進捗管理、理解度の確認、修了証明、受講データのレポート出力の5つです。
動画・教材の配信と自社オリジナル教材の追加
配信機能では、講座ライブラリの動画やスライドを配信するほか、自社作成の研修資料や動画をアップロードして独自教材として配信できます。資料をメールで個別送付し、視聴状況を口頭確認する作業がなくなります。
受講管理・進捗管理
誰が・いつ・どこまで受講したかを対象者ごとに記録し、管理画面から一覧確認できます。未受講者への自動リマインドに対応する製品もあります。代わりに不要になる作業は、受講状況をExcelで個別集計し未受講者に連絡する手間です。
テスト・アンケートによる理解度の確認
教材の視聴後に小テストやアンケートを実施し、正答率や回答内容を自動集計します。「見ただけで理解できたか分からない」状態を防ぎ、フォローが必要な受講者を特定しやすくなります。
修了証明の発行
一定の受講条件やテストの合格基準を満たした受講者に、システム上で修了証を発行します。監査や人的資本開示の際の証跡として活用でき、紙の修了証を個別作成・配布する作業を省けます。
受講データのレポート出力
部署別・役職別・対象者別の受講率やテスト結果を集計し、グラフや一覧形式で出力します。なぜ楽になるかは、複数の管理画面や台帳を横断して手作業で集計する必要がなくなるためです。
5つの中心機能のほかに、AIによる個別フィードバックや他の人事システムとのID連携に対応する製品もあります。機能の多さではなく、自社の研修内容に必要かどうかで判断してください。
eラーニングシステムを導入するメリット
eラーニングシステムを導入するメリットは、研修コストの効率化、時間と場所を問わない受講、受講状況の一元管理、教育の質の均一化、法定研修の計画的な実施と記録の5点です。
会場費・移動費を抑えて研修コストを効率化できる
会場の確保や講師の手配、対象者の移動にかかっていた費用が発生しなくなります。対象者数が多い研修や定期的に実施する研修ほど、費用対効果が高まります。
時間と場所を問わず受講できる
インターネット環境とデバイスがあれば、拠点や勤務形態にかかわらず同じ内容を受講できます。テレワーク中の従業員やシフト勤務者にも、公平に研修機会を提供できます。
受講状況を一元管理でき効果測定がしやすい
誰が受講し、どこまで理解できているかを管理画面で把握できるため、「実施した」だけでなく「理解できたか」まで踏み込んだ効果測定がしやすくなります。
教育の質を均一化できる
同じ教材を全員が受講するため、講師や実施回による説明の質のばらつきを防げます。
法定研修を計画的に実施し記録として残せる
ハラスメント防止研修のように実施が求められる研修を、受講率やテスト結果とあわせて記録できます。人的資本の情報開示や監査対応の際に、実施状況を裏付ける資料として活用しやすくなります。
導入前に確認したいデメリット・注意点
eラーニングシステムは万能ではありません。導入前にモチベーション維持・実技研修との相性・教材作成の負担・通信環境への依存・定着度の確認の5点を確認しておくことをおすすめします。
受講者のモチベーション維持が課題になりやすい
一人で学習を進める形式のため、集合研修のように他の受講者や講師との対話がなく、モチベーションを維持しづらいという声があります。受講期限の設定や上長からの声かけなど、受講を後押しする運用をあわせて設計してください。
実技・対面が求められる研修には不向き
ロールプレイや実技指導のように、その場でのフィードバックや身体的な動作の確認が欠かせない研修には対応しきれません。実践部分は集合研修やOJTで補う組み合わせを検討してください。
自社教材を作成する場合は手間とコストがかかる
既製の講座ライブラリを使わず自社独自の教材を作成する場合、企画・撮影・編集に想定以上の時間とコストがかかることがあります。既製教材で足りる範囲を事前に切り分けておくと、負担を抑えられます。
インターネット環境が前提となる
動画配信を中心とするシステムでは、通信環境が不安定だと視聴が途切れる場合があります。業務用端末でのインターネット利用が制限されている環境では、事前に利用可能な環境を確認しておく必要があります。
受講後の定着度は別途確認が必要
テストで一時的な理解度を測れても、業務での実践につながっているかは別途フォローが必要です。研修後のアンケートや上長との面談もあわせて設計してください。
eラーニングシステムに関するよくある質問
検討時に相談の多い疑問について、2026年8月時点の情報をもとに回答します。
Q. ハラスメント防止研修はeラーニングだけで義務を満たせますか?
実施方法自体はeラーニングでも対応可能です。ただし事業主に求められているのは研修の実施にとどまらず、相談窓口の設置などを含めた防止措置全体です。eラーニングは実施手段の一つであり、それだけで防止措置すべてを満たすわけではないため、社内規程や相談体制の整備とあわせて対応してください。
Q. 自社に研修教材がなくても導入できますか?
導入できます。多くのeラーニングシステムは幅広いジャンルの既製教材(講座ライブラリ)を備えており、自社で一から教材を作らなくても受講を開始できます。自社独自の内容が必要な部分だけ、後からオリジナル教材を追加する進め方が一般的です。
Q. 導入費用に使える助成金はありますか?
人材開発支援助成金であれば、従業員のリスキリングにかかる研修費用や訓練期間中の賃金の一部を助成対象にできます。2026年8月時点の公表情報では、中小企業向けの経費助成率は45〜75%、賃金助成は1人1時間あたり800〜1,000円です。要件や金額は制度改定で変わるため、利用を検討する場合は事前に厚生労働省または最寄りの労働局に確認してください。
※2026年8月時点で厚生労働省が公表する人材開発支援助成金の資料をもとに整理した参考値です。
まとめ
eラーニングシステムは、動画や教材をオンラインで配信し、受講状況や理解度をシステム上で一元管理できる学習管理システムです。
- 主な機能は、教材の配信、受講・進捗管理、理解度の確認、修了証明、受講データのレポート出力の5つ
- 導入が増えている背景は、人的資本の情報開示義務化、ハラスメント防止研修の中小企業への適用拡大、拠点分散とテレワークの定着
- メリットは時間と場所を問わず受講できることと、受講状況を一元管理して効果測定しやすくなること
- 注意点は、モチベーション維持・実技研修との相性・教材作成負担・通信環境・定着度確認の5点
- 研修課題を整理し、一部の部署でトライアル導入してから展開すると手戻りが少ない
自社に合う製品を比較したい場合は、eラーニングシステムのおすすめ4選を比較【2026年版】料金・機能・選び方で料金・機能・対象規模を確認できます。掲載サービスの一覧と資料請求はeラーニングシステムのカテゴリページからご覧いただけます。
本記事は2026年8月時点の金融庁・内閣官房・厚生労働省の公表資料、およびSchoo for Business・AirCourse・UMU・etudesの公式サイトを確認のうえ作成しています。制度・料金・機能は変更される場合があるため、最新情報は各公表元・各社公式サイトでご確認ください。